機上測定の自己較正
 
 

工作機械の主軸にタッチプローブをつけ,工作機械の機内で加工物の形状精度や,位置や向きを測定する「機上計測」は,広く普及しています.恒温室に設置され,多大なエネルギーとコストを消費する従来の3次元測定器(CMM)と違って,機上計測は「製造現場での計測」の代表格です.

タッチプローブ自体は単なる接触センサで,プローブのスタイラス球が測定対象に接触したときの,工作機械のX・Y・Z軸の位置から,スタイラス球の位置を計測します.これがタッチプローブ測定の原理です.この原理から明らかなように,工作機械の位置決め誤差は,タッチプローブ測定の誤差に直結します.そのため,機上計測は単なる簡易チェックで,きちんと測定精度が保証された測定は難しい,と考える人は多いです.

このプロジェクトでは,「自己較正 (self-calibration)」という考え方を使って,機上計測に対する工作機械の位置決め誤差の影響を分離して,機上計測の測定精度を高める方法を考えました.例を使って説明します.図1に示すワークの水平面上の輪郭形状を,立形マシニングセンタでタッチプローブ測定します.このとき,回転テーブルを使って,同じワークを,様々な角度に割り出します.同じワーク上の同じ点を,様々な割り出し角度でプローブ測定します.

図2は,このワークを異なる4つの角度に割り出し,タッチプローブ測定したワークの形状です.工作機械の誤差が全くなければ,ワークは同じなので,測定軌跡はすべて同じになるはずです.これらの軌跡の違いは,工作機械の位置決め誤差から生じているはずです.これを利用して,ワークの形状誤差と,工作機械の位置決め誤差を分離するのが,自己較正の基本的な考え方です.

図3(a) は,通常のプローブ測定(C=0°)で得られたワークの形状(青)と,3次元測定器 (CMM) で測定した「真の」形状との比較です.数マイクロメートルのずれは,工作機械の位置決め誤差が原因の,機上計測の誤差です.それに対して,図3(b) は,提案した自己較正法で求めたワーク形状(オレンジ)です.CMMで測定した形状と,ほぼ一致していることが分かります.

自己較正法は,まっすぐな面(真直度)や,円筒(真円度)に対して,測定器の誤差を分離して,測定の精度を高める方法として確立されています.この研究では,任意の2次元形状のプローブ測定を対象とした,全く新しい方法を考えました.

この研究は,川崎重工業株式会社との共同研究で実施しました.
(大西 翔太,茨木,2023年3月)(執筆:2023年12月)

>> Publications: JE24, CJ35

 
 

図1: 同じワーク上の同じ点を,様々な割り出し角度でプローブ測定します.

図2: 回転テーブル(C軸)を異なる4つの角度に割り出し,タッチプローブ測定したワークの形状です.理想的な形状(灰色)からの誤差を,1000倍に拡大して表示しています(「Error Scale」の矢印の長さが,誤差 50 umに対応します).工作機械の誤差が全くなければ,ワークは同じなので,測定軌跡はすべて同じになるはずです.これらの軌跡の違いは,工作機械の位置決め誤差から生じているはずです.これを利用して,ワークの形状誤差と,工作機械の位置決め誤差を分離するのが,自己較正の基本的な考え方です.

(a) 通常のプローブ測定(C=0°)で得られたワークの形状(青)と,3次元測定器 (CMM) で測定した「真の」形状(緑)との比較です.数マイクロメートルのずれは,工作機械の位置決め誤差が原因の,機上計測の誤差です.

(b) 提案した自己較正法で求めたワーク形状(オレンジ)です.CMMで測定した形状と,ほぼ一致していることが分かります.
図3: 自己較正によって工作機械の位置決め誤差が機上計測に及ぼす影響を分離し,機上計測の精度を向上させた実験例

 
 
 
 
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